退廃的な世界で、バーテンダーとして生きる。サイバーパンクバーテンダーアクション『VA-11 Hall-A』

本記事では筆者オススメのドット絵ゲーム、『VA-11 Hall-A』（ヴァルハラ）についてひたすら語っていく。ドット絵が好きな人に限らず、ノベルゲームが好きな人、退廃的な世界観が好きな人や、“バーで繰り広げられるオトナな会話”に耳を傾けたい人にオススメしたい。

『VA-11 Hall-A ヴァルハラ』

価格：パッケージ版3,828円（税込）、ダウンロード版2,200円（税込）
プラットフォーム：PS4、PSVita、Steam、Switch
発売日：2019年5月30日
開発：Sukeban Games
発売元：PLAYISM

マイニンテンドーストア：
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000017446.html

※本記事で使用しているスクリーンショットは、全てSwitch版のものです。

バーテンダーとして、荒廃した街を生きる

『一日を変え、一生を変えるカクテルを。
あなたのカクテルが、誰かの運命を変える。』

「CYBERPUNK　BARTENDER　ACTION」として発売された、この『VA-11 Hall-A』というゲーム。実際のところ、マイニンテンドーストアではアクションではなく「テキストアドベンチャー」のカテゴリに分類されている。

舞台は西暦207X年のグリッチシティ。町のはずれにある「VA-11 Hall-A」というバーで働く「ジル」が、今作の主人公である。このゲームには、選択肢らしい選択肢は出てこない。その代わりに、お客様に提供するカクテルでその後の展開が変化していく。

ドット絵で描かれるディストピアでの人間模様は、本作が「CERO D」（17歳以上対象）で発売されている通り、ちょっぴり……いや、かなり刺激的な部分もある。しかし、だからこそリアルを感じ、キャラクター達に感情移入できるともいえよう。

↑これだけ見るとセクハラ親父だが、実は大手新聞社の編集長だ。

VA-11 Hall-Aには人間だけでなく、喋ることのできる犬や、リリムと呼ばれるヒューマノイド、時には水槽の中でぷかぷかと浮かぶ脳までもが客としてやってくる。

↑脳に幸せか否かを問われる、ぱっと見不思議な場面。

彼・彼女たちの住むグリッチシティは、平和とは程遠い街だ。貧富の差が激しく、暴動も多い。そのような街で暮らす人々とのおしゃべりは、他愛のないものであっても、プレイヤーの心を動かすことがある。

「でも人生の90パーセントは受け止め方しだい！
物事の明るい面だけを見るようにすれば大丈夫。」

筆者が最初にハッとしたテキストはコレだ。このアナという女性は、セーラー服を着ているにも関わらず成人済み……という謎が多いキャラクターなのだが、どうやら過去に大病を患っていたらしい。その話の後に、屈託のない笑顔で放たれるこの台詞。

この台詞が身に染みるのは、ただキャラクターのバックグラウンドが複雑だから……という理由だけではない。
本作を開発したSukeban Gamesは、ベネズエラの開発者だ。ベネズエラの情勢は決して良いとは言い難く、本作の世界観に通ずるものがある。実際、Sukeban Gamesはインタビューで「ゲーム中、主人公のジルが匿名掲示板を覗く場面が登場しますが、そこで人々が話す出来事は、ベネズエラの現実そのままです」（※１）と語っている。

（※１　参考リンク https://www.famitsu.com/news/201709/22142400.html）

↑グリッチシティでは、物騒な事件が起きがちである。

暗い世界で明るく生き抜くキャラクター達の発言は、しばしば現実世界とリンクしているように感じられる。本作においてどのキャラクターも個性が際立っているのは、製作者が“現実世界を生きる人たち”の心情を丁寧に描写したからに他ならないだろう。

↑常連に年齢を問われ、あっさりと答える主人公。常連が“なぜ涼しい顔で年齢を答えられるのか”と聞くと……。

シンプルなゲームシステム

本作のゲームシステムについても言及しておこう。

基本的にはテキストを読み進めつつ、客の注文通りにカクテルを提供するのが一連の流れだ。カクテルを作る際にはレシピを参照することができるので、特に難しい要素はない。
ただし、客との過去のやりとりを覚えていないと注文通りに作れないケースも稀に出てくるので、注意が必要だ。

↑ミスタードノヴァンのお気に入りは、なんだったかな……。

注文通りにきちんとカクテルを作ることができれば、毎日受け取る給料にパーフェクトボーナスが支給される。受け取った給料は後々家賃の支払い等で必要になるので、優秀なバーテンダーを目指して頑張ろう。

↑「きっと何もかもうまくいくさ。心配するな。」は店長の言葉。温かい職場だ。

時折、ゲーム本編とは異なるミニゲームも挟まれる。
カクテル作りだけだと単調になってしまいそうなところを、丁度良いタイミングでミニゲームを遊ばせてくれるので、飽きずにプレイすることができるのが良い。

↑ジル、飲みすぎである。

作中BGMも必聴

VA-11 Hall-Aの魅力は書ききれないほど沢山あるが、この記事で最後に紹介するのは作中BGMだ。本作ではプレイ中に流す音楽を、プレイヤー自ら選ぶことができる。

BGMには“サイバーパンクっぽさ”がいたるところに散りばめられており、たいへん魅力的だ。
ずっと聴いていられる。実際、筆者はずっと聴いている。

Apple Music等各サブスクリプションで配信されているからだ。お気に入りは「Every Day is Night」。ぜひ読者の皆さんも一度聴いていただきたい。

終わりに

本作は続編の開発が発表されているが、発売時期は延期された後に未定となっている。
（※２）続編の舞台は『N1RV Ann-A』というバー。そこでバーテンダーの主人公「サム」として、カクテルを提供するゲームのようだ。

（※２）https://automaton-media.com/articles/newsjp/20220517-202793/

『N1RV Ann-A』という店については、『VA-11 Hall-A』でも何度か登場する。『VA-11 Hall-A』未プレイの読者の方は、先にそちらをクリアしておくことで、続編をより深く楽しむことができるかもしれない。

さて、そろそろ閉店時間のようだ。
……主人公がバー開店時に放つ「一日を変え、一生を変えるカクテルを！」という言葉。

もしかするとこのゲームには、アルコールよりも強い、あなたの一生を変える力があるかもしれない。ぜひ、一度『VA-11 Hall-A』に足を運んでほしい。どんな現実にも希望を見出すことを忘れない人々が、画面の中で待っている。